世界各地の学校で写ルンですを使った写真教室を開き、子ども達とともに平和をテーマにした作品を発表し続けている庄司博彦さん。子ども達と向かい合い語り合うことで、庄司さんが気付いた写ルンですの持つ力。ぜひ、みなさんも感じてもらえたら嬉しいです。

グランドゼロでの気付き

僕は、世界をまわって子どもたちに写ルンですを渡して写真教室とかいろいろなかたちでボランティア活動をやっているんですけど、そもそもは、同時多発テロがあった直後にニューヨークに行った事がきっかけなんですね。それは、雑誌社から「明日への瞳」っていう希望に満ちたタイトルで写真を撮ってきて欲しいと取材を頼まれて行ったんだけど、もう街全体が戦場じゃないですか。現場で救助をしている消防隊員も全員下向いてて、取材していても覇気がなかった。そりゃそうですよね。同じ隊員を何人も亡くして「明日への瞳」なんてありっこない。

そんな時に偶然目にしたのが、グランドゼロで肩車してもらって星条旗を振ってニコって笑ってる、8歳ぐらいの男の子だったんですよ。彼のそんな様子がすごく印象的で、とにかくすぐに飛んで行って、いろいろ話をして。「なんでそんなに元気なの?」って聞いたら「学校でセラピーしてくれているから」と。「セラピー!?」って驚きましたね。そんな言葉初めて聞いたから。それで、すぐにその子の学校に行って「セラピーってなんですか?」って聞いたら、要するに、絵を描いたり音楽を聞いたり、スポーツをしたりすることで心の傷を癒す治療法の一つだって。それを聞いてびっくりして、「じゃあ、写真を使ったセラピーってあるの?」って、ふと思って尋ねたら「ない」と。それで「フォトセラピーってものもできるんじゃないの?」と思って、日本に戻ってきてすぐに友達のイラン人のところに行って事情を説明して、2001年12月に、とにかくもう、いきなりイランへ行ったんですよ。

確信に変わった思い

イランに着いてからは、リュックサックに写ルンですをいっぱい詰めて学校を回って、子どもたちと写真教室をやりました。その後、2、3年にわたって何度もイランに行って写真教室をやってたんですけど、そんなある日、2003年の12月に、イランで大地震があって。その時にたまたま僕がテヘランにいたので、瓦礫の下敷きになった血だらけの子どもたちがテヘランの病院に運び込まれるのを目の当たりにしてしまったんですね。で、これはイランのために何かしてあげたいなと思って、そのとき、忘れかけていたフォトセラピーのことを思い出したんですよ。だから、写真教室では、子どもたちに「平和で楽しい暮らしをしていた頃の家を撮ってきて」って言って送り出した。そしたら、「妹の瞳の奥に楽しかった頃の家が写っている気がして」って、すごく妹の顔に寄った写真とか、「私をかばって死んでしまったお母さんが眠っているから……私の家はお墓です」って撮ってきてくれた写真とか、ものすごく気持ちが入った良い写真を撮ってきてくれたんですよ。

それでね、その教室の最後に、ある少女が写ルンですを持って「先生、ありがとうございました」って僕のところに来たの。「どうしたの?」って言ったら「私は、バムの街は全滅していると思ってました。でもファインダーから街を覗いたら、バムの街は大丈夫。きっと再建できるんだって思えるようになりました。写ルンですがそれを教えてくれたんです!」って。目で見てるときには全部見えちゃうから「ああ、もうダメだ」って思っちゃうんだけど、写ルンですを構えてファインダーを覗くと自分の好きなものだけを見ようとするじゃないですか。それが結果的にすごくセラピーになったんですね。

だから、僕は彼女の写ルンですからフィルムを外して「つらいときは、この写ルンですを覗いて頑張るんだよ」って渡しました。それまでは、写ルンですで写真教室をやるのって面白いなと思ってたくらいだったけど、ああ、むしろこれからも続けていかなくっちゃならないなあって確信したんですよね。こんな小さいカメラでね、ほんとに治療ができるんだって……。

写ルンですの1、2、3、4

写ルンですっていうのは素晴らしいカメラですよね。ピントも合わせなくて良いし、押せば、ある程度写っちゃうんだから。あとね、最近の日本の子どもは、何でも自動的に全部やってくれるって思ってるでしょ、けど写ルンですは自分の指でノブを巻かないと写真を撮れない。写真教室なんかでもよく子どもが「撮れない!」って言ってるんだけど、それを僕は、まず黙って見てる。それから「それは違うんだよ。一枚分づつノブを回しながら、次は何を撮ろうかなって思い浮かべる。そこにフィルムカメラの良さがあるんだぞ」ってそう言うの。今のカメラはパチパチ押せば、どんどん撮れるでしょ。それが考える時間を奪っちゃった。だからそういう時間を子どもたちに教えるっていうのも、写ルンですの良さだと思うんですよね。

以前、アフリカでエイズの子ども達に写真教室をしたとき、写ルンですを黙って渡すと反対側からファイダーを覗いて、景色が大きく見えるもんだから「ビッグ!ビッグ!」って言うんですよ。それで、通常の覗く方から見たら「あ!スモールだ」って。そういう面白い事があるから、最初は何も教えない。その後にね「このカメラに書いてある1、2、3、4を探してみな」って言うの。そしたら一生懸命数字を探す。僕らは、普段使っていると、写ルンですに数字が書いてあるの、なかなか気付かないけどね。で、まず1があるでしょ、これでノブを巻き上げる。それで、2でフラッシュをオンにする。で、3でシャッター。そして4でフラッシュをオフにする。最初からああだこうだ教えずに、そんな1、2、3、4を探させるのがいいんですよね。そしたら、発見があるし、子どもたちもちゃんと理解する。そして、自分で考えて写真を撮ることで、いろんなことに「気付く」ことができるんですよね。

イスラエルにて

イスラエル行ったときにね、いろんな国の子ども達が机を並べている学校を紹介して欲しいって大使館にお願いして、その学校に行ったら、子ども達は、皆人種が違うでしょ。イスラエルやパレスチナの子どもが同じ教室にいる。だからそれぞれが撮る平和っていうのが、全然違うんですよ。多種多様。例えば一枚は、開け放たれたドアがあって、その前に子どもが立っている写真。もう一枚は、ドアを閉めて、その中で本を読んでいる写真。その2枚の写真が全て語ってるんですよね。平和は、壁が有るほうがいいか、ない方がいいか。

一人は「壁なんか無くて、自由に行き来できる方が平和なんだよ」って。もう一人は「壁があるから安心して暮らせるんだ」って。「No fence is peace」と「Fence is peace」ですよ。子どもたちはね、そうやって僕たちが考える以上のものを撮ってくるんですよ。そんな奥が深くてメッセージ性のある写真を、この写ルンですで撮るんですよねぇ。こんな小さなカメラで……。
写ルンですの力、写真の力ってほんとうにすごい。平和を訴えることもできる。写真は世界の共通語だなって思いますね。

庄司博彦(しょうじひろひこ)
1945年静岡県生まれ。日本大学卒業。フォトジャーナリスト。非営利活動「ワールドチルドレン・フォトプロジェクト」代表。新聞・雑誌の執筆、取材活動の傍ら、世界各地の学校を訪問して、子ども達と平和をテーマに写真教室を開催し、その作品を発表するなど国内外で様々な活動を展開中。著書に『写ルンですで撮った平和』(毎日新聞社)、『SOUVENIR OF CHINA』(Bee Books)。