高校生の頃から学校の暗室で自ら白黒写真を焼いていたというミュージシャンのCoccoさん。毎日新聞での連載をまとめたフォトエッセイ『想い事。』も話題になりました。シャッターを切りフィルムに焼きつけた情景を、プリントしてのこしていく。この行為を通してCoccoさんはどんなことを感じ、考えているのでしょうか。

─ Coccoさんは今でも写真をよく撮られてますか?

最近全然撮ってない。たぶん、春から撮ってないな。

─ 撮っているときはどれくらいのペースで?

ペースはわからん。なんか「いまだ!」みたいなときに。

─ その「いまだ!」っていう瞬間はどういうときですか?

わからん(笑)。予定が全部崩れてしまうから面倒くさいけど。

─ でも撮らざるをえない感じですね。ということは常にカメラを持ち歩いてるのですか?

ううん。持ってない。いつも持ち歩いて撮ってたら絵日記みたいになるでしょ?そしたらもう置く場所がないから、なるだけ少なく。撮るときは、できるだけフィルム1本で終わるようにしたい。撮り切った帰り道に、撮りたいものが出てきて「あぁ〜、1枚のこしとけば良かった!」って思うけど、それも運だな、って。そういう感じにしないと終わらんよ。

─ それがデジタルカメラだったら際限ないですもんね。デジカメを使われることは?

持ってない。デジタルは自分では焼けないし。

─ 自分で焼くことってすごく大事?

うん。大人になってイギリスの写真の美大に行ったわけ。そしたら、学校にいっぱい暗室がある。
で、私は白黒写真をやってたから、特に焼くとき微妙な調整をしてて、そしたら「う〜っ」て……もう、1日中暗室にいて。足も棒みたいになって、でもやっと1日に3枚焼きあがるかあがらないかで、「めんどくせー!」つって(笑)。で、「カラーでいいや」って思ったけど、学校のカラーの暗室に入るには並ばないといけない。

─ あ〜(笑)、白黒の暗室は空いてるけど。

そう。白黒だと並ばなくていいから課題早く終わるかなあ?つって白黒にしたんだけど。でもカラーになったら、もっと面倒くさい。カラープリントって、機械に入れて、そこからプリントがウイーンって出てくるから、その中で何が行われてるのかがわからなかった。白黒は自分の手でできる。自分で見れる。だから白黒をやってる。

─ 今もですか?

今は暗室がない。

─ じゃあ最近の写真は、普通に写真屋さんで?

うん。日本でやるときはね。

─ イギリスにいる時は学校で?

高校の頃から、常に学校の備品を利用する。
備品、備品、備品でやりくり(笑)。

─ Coccoさんにとって写真を撮る、イコール、フィルムカメラで撮るって感じなんですね。

事務所のスタッフが撮影した後に「写真データが消えた!」とか言うわけ。そういうの聞くと、私はフィルム巻くぜ。みたいな(笑)。あと、データが消えたら、それは専門の人に託すしかない。それは、カラーの現像機にフィルム入れたらその中で何が行われてるかわからんみたいなことと一緒で、自分ではどうしようもできない。でも白黒だったら、「あ〜カメラ開けちゃった!でも現像してみよう」って、自分で何かできる。

─ やりようがありますよね。

我が儘にしたいから(笑)。

─ でもCoccoさんの本を見るとカラーの写真が多いですよね。

『想い事。』で、はじめてカラーで撮ったね。それまではずっと白黒で、カラーで撮るってことを考えたことなかったんだけど、沖縄は具体的に色が見えるから、それをわざわざ白黒に転換することはないなあと思って。見るままに撮ろうと思って。あんとき初めてカラーで撮った。

─ じゃあ、逆にそれまでずっとなぜモノクロだけだったんですか?

それは備品でできるから(笑)。

─ シンプル(笑)。プリントはどうやって保管を?

プリントするときは何かを作ろうってときだから、まずベタ焼き(※フィルム1本分のコマを1枚の印画紙に焼き付けたもの)を焼いて、例えば8枚だ、と思ったらベタ焼きから8枚選んで、好きなように焼いてそれでページを作って終わる。撮っててもたまるだけで整理できなくなるから1冊にまとめて作品にしないと。でも、この1冊の流れで入らなかったけど良い写真なのになあっていうものは、ハガキぐらいの大きさに焼いて、裏に手紙を書いて消化したりする。

─ ネガの管理は?

う〜ん。してるよね、たぶんね。

─ やっぱりネガさえあればまた焼けるっていう安心感がどこかにあるってことですね?

うん。

─ それがフィルムの良さですもんね。

前に、ママの昔のアルバムを見てたとき、ママの写真とか家族の写真はいっぱいあるんだけど、ママの7人兄弟の一番上のお兄ちゃん、名護のおじちゃんの写った写真がなくて。おじちゃんは兄弟の中で一番先に亡くなったからいないのかなって思ってた。だけど、ある写真を見たとき、そこにおじちゃんの影が写ってたの。それで、おじちゃんはいつも写真を撮ってた側だったから写真に写ってなかったんだって気付いた。で、私の小さい時の写真も、ママとお姉ちゃんと自分が写った写真はいっぱいあったんだけど、パパと写ってるのがなかった。それを、小さい時はパパがいなかったんだと思ってたの。でもその写真を見た時に、それらの写真はパパが撮ってたんだって気付いた。写ってないからいないと思ってたけど、この人がいつも見てたんだなあってわかった。

─ なるほど。

昔は、写真に写ってないと記録に残らないと思ってたから、自分を残すことにいっぱいいっぱいだった。だけどこのことに気付いてから、自分がいない風景をいっぱい撮れるようになった。自分が見てるんだっていう、影の存在に気付いてもらえた時でかいだろうなあと思って。私の子どものアルバムにある写真は、私が撮ってる写真だから、うちの子どもとうちのママ、うちのお姉ちゃんていうのがいっぱいあって、それを見た子どもが「ママ、いつもいなかったんだね」って。ふん、後で思い知りやがれよって(笑)。

─ (笑)。お子さんのアルバムはどうされてますか?

えっとね、1歳までがいっぱいいっぱい。もう何万枚ってあるから、一応全部をベタ焼きみたいなのにして。とりあえず1歳までのがあれば、ここが自分の実家だなっていう実感はあるだろうなと思って(笑)、1歳までのは作った。

─ それ以降は?

あとは、1本撮っては、そこからいいのを1枚焼いて額に入れて。
アルバムじゃなくて額に入れるようにした。

─ では、額が壁に増えていく?

うん。

─ 壁がアルバム。いいですね。その1本撮って1枚しか焼かないっていうのには何か理由が?

いや、キリがないから。例えばお誕生日にフィルム3本撮って、その中から1枚を選ぶ。
いかにできるだけ少ない数で抑えられるかみたいな(笑)。

─ 選ばれなかった写真って「あるけど無い」という感じですよね。

それも、「あの時私はこの1枚を選んだけどなんでこれだったんだろう」とか思うと面白い。
くだらないのが面白かったり、3年後とかには全然こっちの方がおもしろかった〜みたいな。

─ デジカメだと違ってきますか?

ちゃんとデジカメを使ったことがないからわからないけど、私は、あんまりデジタルにときめかないし、合わなかった。あと家の家電とかすごく壊れるわけよ。でもフィルムカメラは壊れないから、大丈夫(笑)。

─ フィルムがなくなったらどうします?

それはあまり考えてない。たぶんなくならないから(笑)。人間は絶対ちゃんと気付くから。レコードも骨董品もまだ残ってるし。

─ 必要なものだから残っているんでしょうか?でも本当に消えてしまうのもありますよね。

限定のパンとか?

─ (笑)。建物とか。

一番消えるのが恐いのは「気持ち」だからねえ。今一番嫌だなと思うのは、のこすのが簡単になったこと。昔は1枚のために緊張してたさ。私は今も1枚を選ぶのに緊張するけど、デジカメとか写メールとか、画面押さえたことで安心してるわけ。そのあと覚えてる?ただ、私はデジカメだからどうとか思わないし、デジカメで素晴らしい写真も見たことある。だから結局、自分はどこに線引きするかっていう話で、フィルムにこだわってるわけじゃあんまりなくて、ただ好きで、自分に合っていて、で、カメラはまだ壊れない(笑)。だからフィルムで撮ってるだけかなあ。

そんなCoccoさんが高校生時代に自分でプリントしたセルフポートレート等を出展する『アルバムエキスポ」が開催されます。詳細は『アルバムエキスポ大阪』ホームページにて。
http://thanks-album.com/expo-osaka/


1977年沖縄県生まれ。シンガーソングライター、絵本作家、文筆家として活躍。今年8月、エッセイ集『こっこさんの台所』(幻冬舎)を発売。9月には、そこから生まれた楽曲を収めた、1年10ヶ月ぶりの最新作『こっこさんの台所CD』をリリース。http://www.cocco.co.jp/