父、植田正治(※)がはじめた植田カメラは、現在県内に4店舗あります。ここ米子店は、出来た当時は2階に「茶蘭花」という喫茶店、3階には「ギャラリーU」があった、当時としてはすごくモダンなつくりのカメラ屋さんでした。

実はですね、昭和45年くらいに、父から「東京から帰ってこい」と言われて、「この店を作ってやるから」というのが一つの条件だったんです(笑)。今の時代はデジタルな世の中でデジタルのお客さんも多いですけど、うちはアマチュアカメラマンの層が厚い山陰という土地柄もあってか、アナログのフィルムのお客さんも結構来ていただいています。デジタルカメラはただ写すだけの道具っていう感じになってるけど、カメラはやっぱりそうじゃない気がするんですよね。本来は、ちゃんと絞りや距離を設定して、ピント合わせをして撮るべきだと思うんです。

でも最近のお客さんは、絞りは分からない、ピントも合わさないし、何も分かんないと言われる。だから特に、今で言うトイカメラなんかを使われる若い方にそういうお話をすると「原点が分かってなかった」ってすごく喜んで帰ってくれます。他にも「フィルムの入れ方が分からない」とライカのカメラを持って来る方なんかはね、「ここでしか入れてくれない」って(笑)。そうやってアナログに興味を持ってくれているお客さんがいらっしゃいますので、そんな方をどんどん掘り起こしていかなきゃいけない。だから本当はいろんな機会をもって、ゼロからもう一回教えてあげないといけないんです。だからもし、何かそういうイベントやワークショップをやるとしたら、自分でプリントを焼くという体験をしてもらいたいですね。暗室の中で映像が浮かび上がってくるという体験を自分の撮ったネガで出来たら最高だと思います。

あとね、私が写真について思うのは、いつの間にか同時プリントが主流になって、写した分を全部プリントしちゃうから写真の価値が下がったんじゃないか? って思うんです。もちろん良い部分もあったと思うんですよ。でも昔はね、コストも高かったせいもあって、だいたいアマチュアの方はベタ焼き(※)にして良いものだけをピックアップしてプリントするという感じだったから一つの作品に非常に重みがあった。そう思ってうちは、パソコン上で、四つ切りのベタ焼きのようなサイズで、36コマのインデックスを作っているんです。よくある、小さなインデックスでは小さすぎて分からないですよね。もっと大きいサイズ、今のA4くらいのサイズでインデックスを作るべきだって提唱して実行してるんです。

作るにあたっては何も難しいことは無いんですよ。それをお客さんと見ながら「これを、こうして焼いてほしい」「じゃあこんな風にしましょうか」とか言ってやっていく方が良い。たまに大きくしてみたら「うわ、ちょっとこれ違ったな」っていうのがあってもそれが面白いんです(笑)。それが同時プリントだと、そこで写真の世界が終わってしまって、中途半端な満足度にしかなりません。だから、その満足度をもっと上げるためには、現像だけにしてインデックスの中から大きい方へもっていく、私はそれが写真の原点じゃないかと思いますね。そしてやっぱり写真には一緒に言葉も必要じゃないかとも思うんです。すなわち、もう一回原点に戻ってちゃんとしたアルバムに写真を収めて一枚一枚に思いを書いて綴じていったら、それは本当に宝物になるんじゃないかと思うんです。

※植田正治(うえだしょうじ、1913年-2000年)…鳥取県境港出身、世界的にも有名な写真家。「植田調」と呼ばれる独特な演出写真は、フランスでも日本語表記そのままにUeda-choという言葉で広く紹介されているほど。

※ベタ焼き…コンタクトプリントとも言う。デジタルのインデックスプリントなどと違い、フィルムを直接印画紙の上に置き露光するので、フィルムと同じサイズのプリントが並ぶ。写真の整理やチェック用としてプロの写真家が使用する

植田カメラ米子店
鳥取県米子市東倉吉町85-3(TEL. 0859-22-4254)
http://uedacamera.net/