日本人なら知らない人はいないほどのロングライフ商品「写ルンです」。
ところが現在では、「写ルンですを使ったことありますか?」。
そんな質問が成り立ってしまう世代も登場して、
手軽で便利な「写ルンです」はその果たすべき役割を
全うし尽くしたかのようにも思えます。

けれどぼくたちが今号の特集を決めたのは
「いまだからこそ、写ルンですを使ってみる価値があるんじゃないか?」
という漠然とした思いをぬぐえなかったからでした。
幼い頃からデジタル商品に囲まれた子供たちに、
ファインダーの向こう側をフィルムに焼き付けるという
化学的で物質的な原体験を味わってもらうことの重要性。
「使い捨てカメラ」と言われてしまう「写ルンです」が、
循環生産システムを確立したシェア(共有)カメラであるという事実。
シンプル設計ゆえの頑丈さ。
そして何より、人と人がコミュニケーションしていくその隙間に、
もっとも無邪気に滑り込むことが出来るカメラが
「写ルンです」であるという実感。

それらの思いを今回インタビューさせていただいた皆さんは、
見事に確信に変えてくださいました。

今回の特集を読んで、久しぶりに「写ルンです」を使ってみよう。
そう思ってもらえたらとても嬉しく思います。
そして、手軽や便利だけではない、
あたらしい「写ルンです」の価値を
多くの皆さんが実感してくれたなら、
「写ルンです」はこれからも変わらず様々な情景を
フィルムにのこしてくれるのだと思います。

写真のことば編集長 藤本智士