今この時代に、懐古趣味ではなくシンプルにフィルムカメラの価値を伝える若者が熊本にいました。彼の名前は笹井マサフミさん。カメラマンとして活動するかたわら、熊本市内にある写真屋さん「ハコ・フォトショップ」でカメラの清掃教室を開いています。笹井さんが教室の生徒さんとの関わりを通して気付いたことには、フィルムカメラのいまを考える上で、とても大事なことが詰まっていました。
藤本   いま、おいくつですか?
     
笹井   30です。
     
藤本   若い! 清掃教室って聞いたからすごいおじさんかと思ってたから、びっくりした(笑)。
     
笹井   僕、以前東京にいたときに、カメラの修理会社にいて。ただ、仕事では基本、デジカメばっかり扱ってたので、フィルムカメラの方は趣味でやっていたような感じですね。
     
   
     
藤本   清掃教室をやろうと思ったのはなぜ?
     
笹井   どこも教室をやってなくって、ぜひ写真やってる人には覚えてほしいと思って。技術を共有できないのはもったいないなと思ったから。
     
藤本   なるほど。
     
笹井   ただ、素人の方でもここまでやれますよっていうところまでしか教えないです。ちょっとピンセットが滑ったりとかで傷が付いたりするので。
     
藤本   どんなカメラがきても平気?
     
笹井   いや〜、そうでもなくて(笑)。やっぱりメーカーごとに、簡単にばらせないようなつくりになってるんですよ。でも、昔のカメラって、当時の人たちの想いがすごく伝わってくるようなつくりなんです。レンズとか見ててもそう。手削りで、最終的には人の目でいろんな光を当てて確認する。
     
藤本   なるほど。
     
笹井   清掃はね、あんまり一度にやっちゃうと傷だらけになっちゃうので。〝ある程度〟っていうのを何度も繰り返した方が綺麗になる。
     
藤本   自分のカメラを愛でる術を教えてもらえるのはいいよな〜。
     
笹井   汚くても掃除したら愛着がどんどん湧いてくるので。もう、日本中どこへでも出張しますよ。やっぱり80年代のフィルムカメラって一番開発にもお金がかかっていて、例えばシャッタースピードもすごく安定してたりするんです。当時のカメラはレンズもボディも名機ばっかりですね。一方デジカメにはやっぱり、シャッターにムラがあるものも多かったりして。
     
   
     
藤本   そういうのを前職でずっと見てきたわけやもんね。
     
笹井   だから、フィルムカメラってほんとに究極のカメラです。露出さえ覚えておけば、それが機械式だったらずっと撮影ができるので。僕のワークショップで清掃をやった人たちは、もっとカメラのことに詳しくなろうって思ってくれるんですよね。ただ撮るだけじゃなくて、この設定だと写るかな、とか考えたり。
     
藤本   それはいいな〜。教室にはどんな人が?
     
笹井   女性が多いですね。女性ってほんとに、大事なことを知ってる。僕らにない客観的な目線を持ってるのですごく勉強になります。あと、女性はちゃんと、カメラというものをコミュニケーションツールとして使ってる。そこが男性と違う気がします。
     
   
     
藤本   カメラの楽しみ方をいっぱい知ってるよね。それはやっぱり教室をはじめて分かったこと?
     
笹井   ほんとそうです。よくテレビとかで言う「お金じゃ買えないものがここにある」っていう感覚がよく分かりました。
     
藤本   そうやんね〜。結局、フィルムカメラのよさって言葉にできなかったりするんですよね。究極、僕はフィルムカメラのよさって「なんかええ」ってことやと思ってるんですよ。言葉にできないけど何かがいい。
     
笹井   それが僕は大事なような気がするんです。
     
藤本   それをなかなか男の人は受け入れられない気がするというか。「え? それって何がいいの?」って。でも女の人は「ああ、確かになんかいい」って一気にいろんな壁を乗り越えて成立させられる。昔はこういう機械としてのカメラってわりと男性のもんだったけど、デジカメ時代になったいま、カメラ自体は一緒なんだけど、ぜんぜん感性の違う人たち、つまり女性的な感性が新たにフィルムカメラに触れて、その世界を今完全に引っ張ってる。
     
笹井   そうですね。僕みたいに写真を仕事にするには、その構造、根底を理解しないといけないと思うんですけど、楽しむっていう分には逆にそれを分かってはいけないような気がしてるんですよ。
     
藤本   うんうん。
     
笹井   僕はハプニングが最高のクオリティだって思うんで、撮影会とかでも、生徒さんたちには訪れるハプニングを純粋に楽しんでほしいなって。だけどそれが仕事になると、その一歩先のゴールを目指しておかないといけない。でも、僕自身は、そういう意味でのこだわりやプライドってないんです。研究者でありたいから。
     
藤本   なるほど。分かっちゃったって言うほうが楽だからね。そこで終わりだから。
     
笹井   温故知新は死語ですよ。
     
藤本   ほんとそう。だから、僕は今回の特集を「未来の写真機フィルムカメラ」にしたんですよ。「昔は良かったね」って言ってるのは違うなと思って。だって、デジカメの登場で受けた恩恵ってすごくいっぱいあるから、デジカメVSフィルムカメラじゃない。でも、そこにだんだんとiPhoneのような存在が出てきて、僕もiPhoneでいろいろ撮ったりするようになると、デジカメってもう写真機というか写真機能だなって。
     
笹井   ほんとにそうなんですよね。
     
藤本   だから、写真機っていう分野に関しては、デジカメ全盛の後、改めてフィルムカメラを普通に次の写真機として使い出す可能性があると思って。
     
笹井   そうですね。
     
藤本   そういうときに、修理とか清掃、メンテナンスの部分がすごく大事。そういう現実的なことをクリアにしていく先に、なんかちょっと、新しい姿っていうか、ポジティブなフィルムカメラの姿を見せられたらいいなって思ったんですよね。
     
   
     
笹井   そうですよね。ほんとに、35ミリだからダメ、デジカメだからダメとか、なにかを決めつけるっていう行為はすごくもったいない。それよりも「この場合はこれを使った方がより効果的だ」っていう言い方のほうが、よっぽどいろんな物事を分かってる気がする。
     
藤本   そうですね。ただ、ここまでつないでくれた女性たちの写真を、もう一度、男性的なものにしていく努力も、いま僕はとても必要な気がしていて、それはやっぱり女心と山の天気は……みたいなね。
     
笹井   そうですね。せっかく女性の感性がつないでくれたフィルムカメラの文化を、確かなものにしたいですね。
     
藤本   うん、そこに〝カメラの清掃〟っていうのはとても重要な役割を果たしてくれる気がしてます。