東京は六本木フジフイルムスクエアで開催された「写真のことば」はじめてのイベント「写真屋さんたちのリアルトークセッション」。ゲストには写真家の平間至さんを迎えて、フィルムカメラや銀塩写真の良さを伝えようと、全国各地で頑張っていらっしゃる写真屋さんによるトークセッションを行いました。

■出演
陰山光雅(かげやま写真スタジオ)、松岡笑美子(フォトランド松井山手店)、
大村一徳(軽米写真館)、勢井正一(STUDIO 5)、ミヤモトタクヤ(カメピストア)
■ゲスト 平間至(写真家) ■聞き手 藤本智士

藤本   本日はご来場いただき、ありがとうございます。「写真のことば」編集長の藤本と申します。よろしくお願いいたします。僕はもともとRe:Sという雑誌を作っていて、その中で「フィルムカメラでのこしていく」という特集をしたことをきっかけに、銀塩写真、フィルムカメラなどについていろいろ考えるきっかけをいただきまして、その延長線上に、この「写真のことば」というフリーペーパーがあります。そして、この創刊号の特集が「写真屋さんの未来」。僕たち一般のユーザーにとって、すごく身近にいる写真屋さんって、あまり光が当てられることがないけどすごく重要な存在じゃないかなあと思って、今回はこういうイベントをやってみようと思った次第です。では、本日のゲスト、写真家の平間至さんにご登場いただきます。よろしくお願いします。
     
平間   よろしくお願いします。
     
藤本   平間さんは写真家としていろいろご活躍されていて、かつ最近はゼラチンシルバーセッションという活動をされております。今回、平間さんにイベントにご登場いただいた理由を平間さんご自身からお話いただいてもよろしいでしょうか。
     
平間   僕は宮城県塩竈の写真館、今は休業中なんですけども、そこの3代目として生まれました。僕にとって写真というのは全く日常のもので、写真館のスタジオの中でキャッチボールしたり、子どもの頃から写真館の手伝いをしたりして育ってきました。僕は、大学から東京へ出てきたんですが、自分が後を継げなかったから、その後ろめたさもあって、東京で写真屋さんなのか、写真館なのか、何かやりたいという思いが日々大きくなってきているんです。
     
   
平間至さん
     
藤本   実は僕も何か新しい写真屋さんを作れないかなと思っていたので、これからご登場いただく先輩写真屋さんにリアルな現状を聞きながら、あまりネガティブではなく、明るい写真屋さんの未来について語りたいなと思います。では、ご登場いただきましょう!
     
ミヤモト   東京のカメピストアのミヤモトタクヤと申します。よろしくお願いします。
     
大村   岩手県の軽米というところから来ました、軽米写真館の大村一徳です。田舎代表としてお話させていただきます(笑)。よろしくお願いします。
     
松岡   はじめまして。京都から来ましたフォトランド松井山手店の松岡笑美子です。本当に写真が好きで写真の虫と言われるくらいです。本日は、よろしくお願いします。
     
勢井   こんにちは。大阪でモノクロ専門のプロラボ、スタジオファイブを営んで33年になります勢井正一です。よろしくお願いします。
     
陰山   こんにちは。鳥取、かげやまスタジオの陰山光雅です。今日は皆さんにとってのいろいろなきっかけになればいいなと思っています。どうぞよろしくお願いします。
     
藤本   皆さん、非常に個性的な方々に揃っていただきました。簡単に僕からもご紹介させていただくと、陰山さんは鳥取県の赤碕という町で写真館をされていて、特にモノクロのプリントにこだわって色々されているので、そのあたりのお話をお伺い出来ればと思います。

勢井さんは少し毛色が違って、街の写真屋さんというよりは、プロのカメラマンさんが出しに行く、所謂プロラボです。しかも手焼きのモノクロプリントだけでやっておられて、なかなか需要が少ない中、一生懸命されています。

松岡さんは京都の松井山手というニュータウンの駅前にお店を構えられています。新しい街の中で一生懸命銀塩にこだわって写真屋さんをやられています。

大村さんは岩手の軽米で、冬は本当に雪深いところなんですが、そういう中でトイカメラを置かれたりと、色々新しい試みをされています。

ミヤモトさんは、東京でカメピストアを。そもそもカメラピープルというサイトを運営されていて、それだけでなく「カメラピープル」という写真集も出されたり、色々アナログな動きもされています。

皆さん、今日は明るい未来を語り合いたいので暗い雰囲気にならないよう、気をつけてくださいね(笑)。では、まず最初にミヤモトさんにお話を伺いたいと思うのですが、ミヤモトさんがお店を始められたのはいつでしたっけ?

     
ミヤモト   ちょうど去年の1月25日オープンで、もうすぐ1年ですね。
     
藤本   今みたいな状況で、何故写真屋さんをやろうと思ったのか、というところからお話を伺いたいと思います。
     
ミヤモト   そもそもは日本ポラロイド社さんのWEBサイト制作の仕事で写真の楽しさを知ったのがきっかけです。で、自分たちがポラロイドの本を作ったり、イベントをしたりする中で、ユーザーさんの写真に対する熱い思いを感じていたんですが、その後、お仕事で写真屋さんを取材した時に、ちょっと冷めた感じの印象を受けたんです。そこのギャップをすごく感じて、なんとかそういう思いにうまく応えられる場所はないのかと思いまして。自分たちは何が出来るかって考えたときに、ちょうど僕たちがメーカーさんとユーザーさんの間にいてるような存在だったんで、僕たちが思う写真屋さんを自分たちで作れないかなと思って。それが1年半前くらいですね。お客さんに教えられながら常に変わっていっている写真屋なんで、写真屋といっていいのかよくわからないお店なんですけど。
     
   
ミヤモトタクヤさん
     
藤本   お店としてはDPEをされているんですか?
     
ミヤモト   はい。1階はDPEと、写真に関する雑貨とかフィルムを置いてます。2階はギャラリー・ライブラリースペースで、ユーザーさんが集まって写真が楽しいなと思ってもらえるような空間になればいいかなと思っています。
     
藤本   ミヤモトさんに見えているユーザーの方はかなり写真を楽しんでられるんですね。
     
ミヤモト   そうですね。
     
藤本   それに対し、写真屋さん自体が写真を楽しんでないんじゃないかと。
     
ミヤモト   そうなんですよね。
     
藤本   そういう意味では今日来られている写真屋さんの皆さんはどうですか?
     
大村   え〜と、僕は写真屋をやって25年になるんですけど、今までで一番大変ですよね。でも何故か今が一番楽しいんですよ。結局今まで、お客さんの気持ちとか、何を求めてプリントしたいのかっていうのが分からなかった、というか分かる前に考えてもみなかったんですよ。現像プリントすることが、もう流れ作業になってた。お客さんは楽しんでらっしゃったのに、それを僕たちは全然気づいてなかった。だからそれに気づいた今は、面白いことをやろうっていう気持ちが強くなってきて、今はその途中にあるんですけども、お客さんに教えられながら頑張っています。
     
   
大村一徳さん
     
藤本   プリント枚数も減ってきて、今まで考えなくてもよかったことを考えたことが、ある意味、逆によかったんですね。
     
大村   そうですね。
     
平間   写真館、写真屋さんって全国チェーン店が色々ありますけど、フィルム持って行くと「○時に来てください」ってだけで他聞く気もないし、全く人と人がコミュニケーションしようとしていない。あれがすごくおかしい感じがして。写真を撮るのはある種コミュニケーションで、伝えたいから撮るわけですよね。本来、町の写真屋さんっていうのは、写真のアドバイスをしたりお客さんと一緒に写真を見て楽しんだり、最初に出来上がった写真の喜びを共有出来たりして、そこから写真文化が広がっていったはずなんですけど、今は全然そういう土壌がない。だから僕は、そういう人と人のつながりのある写真屋さんをやってみたいというのがあるんです。
     
藤本   そうですね。そういう意味で僕が今回取材した時にすごく印象的だったのは、松岡さんのお店なんですよ。お客さんが旅行のお土産持って来たりする関係を築いてる。松岡さんは、必ずお客さんに声かけはるんですよね。
     
松岡   最初にお勤めしたところの社長がとにかくそういう方で、それをずっと私も続けています。店の女の子にもそう言ってます。うちの店はデジカメに力入れてないので、デジカメの機械は本当に簡単なものしか置いてないんですね。で、デジカメの方はお店に来ても「こんにちは」とか「ちょっと機械使わせてください」とか言葉もなく、スッと機械のとこ行かれて、分からないときだけ「どうしたらいいの?」って聞かれる程度。だけどフィルムの方はそうはいかないです。写真を渡すとき、気になる一枚を一番上に載せておいて「いいですね〜」って声かけたりしてね。もう絶対しゃべってます。
     
   
松岡笑美子さん
     
藤本   そのコミュニケーションの取り方が上手いなあと思いました。でもそういうのって、写真屋さんだけじゃなくて、いろんな商売において本来当たり前のことですよね。
     
ミヤモト   そうですね。僕は本業の関係でいろんな業種の会社を見せていただくのですが、コミュニケーションという点で写真業界は疎いなあと思います。「請け負う」姿勢の人が多い。
     
藤本   やっぱり人様の写真を扱うから、あんまり「これいいですね」とか言っちゃうと、「わ、見られてる」とか思われるかなあと心配することもあるかもしれませんけどね。
     
平間   うん。でもやっぱり誰かと共有したいっていう気持ちがあってシャッターを切るわけだから、写真屋さんが最初に共感して見てくれる人だといいですね。
     
ミヤモト   ちょっと引っ込み思案な感じの人でも、こっちから話しかけたら「待ってました」というように話してくれるお客さんとかいるんですよ
     

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