藤本 |
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そもそも写真屋さんってどういう仕事をしているのか、あまり皆さん把握していないような気がするんです。例えば陰山さんは普段写真屋さんとしてどんな仕事をされているんですか? |
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陰山 |
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すごい田舎なんで、もう本当に結婚式から葬儀写真まで。基本的には証明写真とかDPEがメインで、シーズン的に七五三や学校の卒業アルバムなど。まあやっぱり多いのは証明写真ですね。証明写真は機械もありますけど、最後は皆、写真屋さんに来る。だからすごい責任もって真剣に撮るんです。本当に思うんですけど、素人さんていうか、普通の人を撮るのは大変です。モデルさんだと、イメージ伝えて、シャッターチャンスと構図を考えればいいんですけど、普通の人はいろいろ話しかけてコミュニケーションとらないと、いい写真は撮れないです。しゃべってる間にシャッター押すんですけどね。 |
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藤本 |
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商売として収入源はどこが一番大きいんですか? |
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陰山 |
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やっぱり量が量ですから、証明写真とDPEですね。 DPEは正直5、6年前から減ってきてますけど。でもデジタル100%になったらお客さん自身が困るんです。もちろんそれは、あくまで写真の「持ち」に関してですけどね。僕は写真というのは長持ちを第一に考えてますんで。それで白黒写真が長持ちするって15年程前に気づきました。完璧に処理したら100年から120年は持ちますからね。 |
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陰山光雅さん |
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藤本 |
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デジタルの良さは当然僕たちも分かってるんです。僕もしょっちゅう使いますし。そういうデジタルの良さを享受しながら、今陰山さんがおっしゃられた、のこしていく、ということを考えるとフィルムの方がいいんじゃないかという話しですよね。 |
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陰山 |
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はい。チャンピオンは銀塩のモノクロですね。もちろんデジタルも分野によっていいところはあります。でも全てがデジタルになってしまうとちょっとね。自分のひ孫の代までインクジェットで出した写真がのこるのかっていう問題もありますし、データが消えたりすることもありますし。僕もデジタル使いますけどプリントするまですごく不安です。CD-Rにデータ移しただけでは、まだ「途中」なんですよね。 |
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藤本 |
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そういう意味では、今日皆さんと共有出来る事のひとつとして、「写真はプリントしましょう」と、ひとつ明確に言えるんじゃないでしょうかね。その中で、勢井さんはまた少し違うというか、モノクロにこだわってされてるわけですが、そもそもどういう経緯で今のお仕事をされているんですか? |
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勢井 |
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もともとモノクロが好きでこの道に入りました。 |
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勢井正一さん |
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藤本 |
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それが、需要があったわけですよね。 |
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勢井 |
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そうですね。 |
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藤本 |
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今、本当になかなか一般のお客さんはモノクロでプリントしないですよね。10年前でもしてたかなあ?と思うんですけども。 |
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勢井 |
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10年以上前は今よりはるかに仕事の量は多かったですよ。 |
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藤本 |
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その仕事というのはどういう仕事だったんですか? |
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勢井 |
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モノクロの、新聞広告、雑誌、ポスターの関係ですね。昔は、そういうのは必ずモノクロプリントが必要だったんですよ。それが今は全部デジタルに変わってしまったということですね。 |
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藤本 |
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そうですね。そうして、いまはなかなか需要が無いんだけど、一方で僕は、最近モノクロのフィルムで娘の写真とかを撮ったらいつも勢井さんに現像してもらうんです。で、気に入ったものを大きく焼いてもらう。それはすごい新しい楽しさなんですね。いわば、このド素人の僕のプリンターなんですよ。こういう関係性っていうのは、普通のユーザーさんにとっても有りなんじゃないかなあという思いがすごくあります。 |
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平間 |
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こないだ藤本さんに見せてもらった、かわいい写真台紙に入ったプリントも勢井さんによるものでしたね。 |
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藤本 |
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そうなんですよ。僕がやっているRe:Sという雑誌で記念写真、家族写真を撮りましょうという「りす写真館」って企画をやってるんですが、このプリントも、いつも勢井さんにお願いしてるんです。 |
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平間 |
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物としての重みがありますよね。風合いといい。 |
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藤本 |
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そうですね。この独特の質感が、やっぱり美しいんですよね。これはもともとRe:Sの写真を撮ってくれているカメラマン、伊東俊介さんの「勢井さんに仕事をまわしたい」っていう思いからスタートしたんです。だからこの「りす写真館」自体は、最近日本人が忘れてしまっている家族写真をもう一回見直してみてほしいという思いが基本的主旨としてありながら、さらに、これをやることで僕らは勢井さんに仕事回せるというところがあったんですね。そう考えると、会場のみなさんも一般のユーザーとして、それぞれの立場で、この写真業界の中で何か出来ること、アクション起こせることがあるんじゃないかなあと思うんです。 |
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平間 |
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なるほど。そういえば、こないだミヤモトさんのお店に行かせていただいたんですけど、すごい流行ってましたね。全国からフィルムが集まってくるっていう話しを聞いたんですけど、もともと写真業界にいたわけでなく他業種からの参入じゃないですか。一般的な店と決定的に違うものが何かあると僕は思っているんですが。 |
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ミヤモト |
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多分、今僕がこの場で「うちは写真屋です」って大きな声で言えないところが、良くも悪くもうちの店なのかなあと思います。ある写真屋さんでお話伺った時に聞いた「お客さんと一緒に写真を作らせてもらってる」っていう言葉が頭から離れないんです。「確かに、そうやな。そんな世界って他にないよな」って、すごくびっくりしたんですよね。でも僕らは今までそういったプリントのプロとしてやってきたわけでもなく、まだまだこれからなんですけど……とにかく、写真をプリントするとか、プリントした後の部分を楽しむとか、そういった周りの部分まで提供したいなっていうのがあるんです。 |
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平間 |
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写真そのものよりも、写真周辺含めてということですね。 |
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ミヤモト |
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そうですね。あと、うちに来られる写真を楽しいと思っている方は、フィルムのお客さんが多いです。だいたい9割5分くらいがフィルムのお客さんで、そのうちブローニーフィルム(中判カメラやホルガ等トイカメラに使用する120mmのフィルム)を使う方が3割くらいいたりだとか、ちょっと特殊な店なので、他の写真屋さんが来てくれたりしてくれても全く参考にならなかったりするんですけどね。 |
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藤本 |
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やっぱり特殊ですよね。でも、参考になる部分がいっぱい隠れていると思うんですよ。 |
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ミヤモト |
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そうですね。どうしても業界の人は、いかに早く安く出来上がるかで写真屋さんを選ぶお客さんが多いと思いがちなんですよね。でも実はお客さんはそうじゃないところで写真屋さんを探していて、ゆっくりでも、その出来上がりまでの待ち時間が楽しいって方もおられるんだと感じています。うちの周辺に何店舗も写真屋さんがあってお客さんの取り合いになるんじゃないかって思われるかもしれないんですけど、そうじゃなくて、みんなでお客さんを育てていって、お客さんが「これはあそこの店に出したい」「この写真はこっちに」と、選べる世界になったら面白いなと思うんです。 |
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藤本 |
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自分にとってこのお店、この写真屋さんがいいなあっていうのを見つけられるだけでちょっと変わってきますよね。ということで、ちょっとここで、新しい写真屋さんっていうことについて考えていきましょう。まず、コミュニケーションがすごく大事。これはキーワードですね。 |
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松岡 |
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皆さんお客さまと忘年会とか新年会とかやられます? |
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ミヤモト |
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うちは、結構ネットで繋がってるお客さんが多いので、もうオフ会みたいなものはしょっちゅうで、付き合いはかなり多いですね。 |
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松岡 |
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うちは年に3回、親睦撮影バスツアーっていうのをやってるんですよ。会員って決まってないんですけど、だいたい60人くらい。で、私が外れてもお客さん同士が仲良くされてるんですね。本当にそういう人の輪を作っていきたいなと思って、どんどん勧めています。 |
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藤本 |
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陰山さんも何かされてますよね。 |
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陰山 |
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ええ。一応アマチュアの写真クラブをやってまして、年 1回忘年会もやってます。 |
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藤本 |
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大村さんはどうですか? |
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大村 |
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僕も田舎の方から発信しなきゃいけないということで、3ヶ月前くらいに通販のサイトを立ち上げました。そこに送ってきてくれる人は若い人が多いんじゃないかなという実感があります。あと、コミュニケーション取るためにブログも毎日書くようにしてるんですが、その中でメールくれたお客さんが「遠くにあるのお店なのに近くにあるような気がする」って言ってくれたことがあって。その時に、お客さんって、どんなお店で、どんな人が焼いているのかを、やっぱり知りたいんじゃないのかなって強く思いました。 |
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藤本 |
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大村さんは、サイトを利用されたり、お店にもいろんな雑貨置いてはりますよね。そういうアクションって、どこかにやっぱりそういう需要があるって何か感じてはるからだと思います。ミヤモトさんは、お店をやろうと思い切った時、どんなポジティブな未来を描いてらっしゃったんですか? |
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ミヤモト |
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もちろんやるからには、ビジネスとして成り立たないと続けられないと思っていました。でも僕、写真は結構明るい業界やと思うんです。世の中的には、写真を撮るっていう行為がどんどん増えていると思うので。例えば、HPに自分が撮った写真をアップして皆に見せるっていう行為って多分この10年くらいの間のことで、今までなかったですよね。だから、そういう人たちに、銀塩プリントの素晴らしさとか、こういう写真の残し方もあるよっていう提案をしてあげればいいと思うんです。うちに来るお客さんで今までデジタルでしか撮ったことなかったって人が、雑貨を買いにくるきっかけで来られて、うちのプリントを見てもう一回フィルム始めようかなって思われたりする方もいて、そこからで全然いいと思うんですよね。だから、うちの店で出来ることは写真を残していくことの大事さや楽しさをわかってもらうことですかね。 |
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藤本 |
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なるほど。だけど昔から写真屋さんをやってこられた方は、どうしても昔の良かった頃のことが残ってしまうので、それが思い切れない原因になったりしそうですよね。大村さんはどうですか? |
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大村 |
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いや、僕は良かった頃のことは全然考えないですね。そういう時代あったのかな?っていうくらい。今はやっぱりお客さんとのコニュニケーションがものすごく面白いんですよ。沖縄の方が、岩手にあるうちの写真館にプリントを頼んできてくれたりする。すっごい気合い入りますよ。沖縄の海が写ってる写真を岩手にいる僕が雪降る中プリントしてるわけですよ。すっごい楽しいんですね。写真撮ってる人の思いが伝わってくるので。商売的には今は本当につらいですけども、未来っていうか、こうやってつながっていけば、どんどん広がっていくんじゃないかって確信的にちょっと思ったもので、だからつらくても楽しい、という状況にある(笑)。 |
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藤本 |
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商売としての写真屋さんていうよりも、仕事としての意義みたいなところにすごい楽しみとかやりがいを感じているということですね。 |
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大村 |
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要するにそういうことですね。でもそう思えないのに仕事をしたって上手くいくわけがない。何の仕事でもそうですけど。 |
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藤本 |
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そういう仕事としての意義っていうことでいうと、僕たちが初めてかげやま写真スタジオに行った時には、表の張り紙にびっくりしたんですよね。メッセージというか、ちょっと僕恐かったくらいなんですけど (笑)。 |
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陰山 |
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はい、今日は、その恐いのを持ってきました。 |
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会場 |
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(笑)。 |
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陰山 |
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自分が生きているうちに自分が思っていることをとにかく伝えたいんですね。自分のお客さんだけだったらパンフレットとか作ってプリントと一緒に渡したらいいんですけど、そうではなく、写真界全体の為に表に出そうと。正しいことを常に書いてるとは限りませんけど、とりあえず私の思いを伝えて、見てる人が「あ、そうだな」って何か感じてくれればと思って。うちのスタジオの前はちょうど道路なんで、信号で止まった人がなにげなく見てたりするんです。 |
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藤本 |
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そう、これです。 |
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陰山 |
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この貼り紙に書いてあるのは「とにかく記録が大事だ」ってことですね。記録されたものを見て初めてその当時が偲ばれるっていうか、撮ってないと偲べないんです。若い人で結婚したてだったりすると、記録するお金がないかもしれないでしょうけど、後から後悔しても遅いですから。これは女房が書いたんです。私すごい字が下手で。私は頭がいいから字が悪くて (笑)。 |
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会場 |
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(笑)。 |
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陰山 |
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貯金なんかは10万使ってもあとからちょっとずつ戻せばいいけど、記録の場合は3歳の時撮っておかないと5歳になったらもう3歳を撮れないんです。20歳の時の写真は30になったら撮れない。 |
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藤本 |
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そうですね(笑)。ちょっとこの光景、いかがわしいセミナーみたいになってますね。 |
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会場 |
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(爆笑)。 |
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陰山 |
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幼稚園の遊戯会とかでも、よく頼まれて写真撮りにいくんですけど、後ろ振り返ると、お父さんお母さん大体の人がビデオです。写真撮る人はすごい少ないんです。よくアメリカの映画かなんかで、バーで壁一面写真だらけ、とかありますけど、ああやって出来るのが写真の究極の良いところです。ビデオはそういうわけにはいかないんです。 |
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藤本 |
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そうですね。以前ミヤモトさんも、テレビの上に家族写真1枚あるかないかで、何かが違ってくるっておっしゃられてましたね。 |
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陰山 |
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やっぱり歴史として自分でアルバムを残すこと。それと、働いて帰ってきて、家の壁に自分のかわいい子どもの写真が貼ってあったらやっぱり楽しいわけです。生きてるうちに楽しめるのが写真なんです |
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藤本 |
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ええ。やっぱり陰山さんみたいな人がいると頼もしいですね。こういう人が鳥取にいてはるってだけで安心する。胸のうちに思っていることを、ああやって堂々と掲げられてるって、なかなか無いことなんで。でも、すごくわかりやすいですよね。 |
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陰山 |
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いつ死ぬか分からないから、反発を恐れず言いたいことは言っておこうってね。究極は白黒写真でのこすことです。別にだからといって白黒使ってくださいってことではないんですけどね。知ってていただきたいということでね。あの、ビデオはビデオで長所はすごくあります。デジタルもあります。 |
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藤本 |
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そうですよね。僕も陰山さんに言われて、たまにモノクロで撮ってみようかなって撮り始めましたからね。そういう方は結構いらっしゃるんじゃないですかね。 |
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平間 |
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僕のおじいちゃんは、ひらま写真館のスタジオでコンサートとか芝居小屋呼んだり、そういうことをやってたらしいんですね。だから今の陰山さんみたいに、お店は何か発信源にならなきゃいけないんですね。それをすごく思いました。 |
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藤本 |
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そうですね。ここまでお話を伺ってきて、コミュニケーションとかいろんなキーワードが出てきたと思うんですけど、僕は今、「遅い」・「高い」・「美しい」っていう写真屋さんをやろうかなって思ってますね。写真をきちんと現像したりプリントしたりっていうのはこんなに手間がかかるものなんだっていうのを勢井さんの現場見せてもらったり陰山さんのお話伺ったりして、なんとなく実感しているので、そこに見合う適正な料金っていうものが必要だなぁと。だから僕らが仲介役となってお客さんにプリンターさんを紹介します、って店を一回やってみたらどうかなあって思っています。 |