トミカラーで岡田さんに会い、ラボマンの姿を目の当たりにしたぼくは、改めてmogu cameraの小倉君に連絡をします。2度目となる対談のお願いに今度は「わかりました。いっぱいとことんお話しましょう!!」とOKの返事を。さっそく、ある日の営業時間後、お店に伺いました。話のなかで、ぼくがおぼろげながらイメージしていた「フォトシエ」をずばり代弁してくれた小倉君。対談を終えたぼくの胸には、写真屋さんの明るい未来への希望が芽生えました。ぜひ読んでください。

ラボマン

藤本   今日はありがとう。
     
小倉   すみません、わがまま言って。
     
藤本   いやいや、自分の仕事のことをちゃんと考えてるっていう証拠やから。
トミカラー行ってきたよ。岡田さん、元気にしてはったよ。
     
小倉   トミカラーさんも岡田さんがいることで信頼が上がったって聞きます。
     
藤本   岡田さんの存在は大きいね。でも、やっぱりほんとに若い人がいない。
     
小倉   いない。僕が22でラボに入った頃は営業も生産も若い人がいたけど、この先が不安になって辞めていったりして。だから、岡田さんらの次の世代で技術がある20〜30代のラボマンの絶対数はどうしても少ないんじゃないかなあと思う。
     
   
     
藤本   小倉くん、いまいくつ?
     
小倉   32です。だから、この仕事を始めて10年。
前のラボで8年働いて、この店が準備期間を入れて2年ですね。
     
藤本   22で入った頃は、まだまだ商売が回っていた時期?
     
小倉   その頃は、まだ全然デジタルの脅威を感じてなかったけど、そのときはラボ同士でお客さんの取り合いをしてたかな。京都だけでもラボが4つくらいあって。
     
藤本   それが、以後10年で一気に無くなっていった。
     
小倉   当時のラボは、秋の七五三から年賀状、成人式と秋冬の仕事が最大の収入源。
それがデジタルの波で激減して。
     
藤本   そういう状況のなかで、なんで小倉君はずっとその仕事を続けていたの?
     
小倉   う〜〜ん。やっぱり会社として見てしまってたら僕も辞めざるを得なかったと思う。26、7の頃、同世代のお給料の話なんか聞くと愕然としたし(笑)。でも僕にはプリントだけじゃなくて撮るほうも常に頭にあったから。今、僕は写真家としても活動をしていて、ほかのカメラマンさんに負けないと自負しているのが、ラボの経験から色のことを理解しているっていうこと。だから、当時は会社に行ってるっていうよりも、お金もらって写真の専門学校に行ってるような感じだったかもしれない。
     
藤本   もともと、なぜラボで働こうって思ったの?
     
小倉   大学4回生の就職活動のときに、まあ、ふつうに銀行とかも受けたり(笑)。
でもやっぱりどこの面接に行っても言葉に詰まってしまって。そんなとき、たまたま合同セミナーに前の職場だったラボが来てて。そこで、すごい不思議なくらい話せたんですよね。
     
藤本   営業じゃなくて焼く方で入ったの?
     
小倉   そう。確か、大卒で生産に入ったのは僕が初めてだったと思いますよ。
みんな普通は営業なんですけど。
     
藤本   そうか。でも、入ってしばらくして職場がだんだん縮小されていくのを日々感じてたわけやね。
     
小倉   確実に人が減り、月1回 の社長の朝礼も残念な話ばかり。普通の感覚でいうと辞めてるのが正しいと思う。でも、ありがたかったのは逆に自分に与えられる仕事の範囲が広がったこと。10年前の忙しさのままだったら5年経っても教えてもらえない仕事もやらせてもらえたから。そんな中で、ずっと岡田さんの横にいたんですが、とにかくすごくかっこよかった。お客さんに電話するときも、岡田さんはプリントをクラシックとかロックとか音楽に例えるんですよ。そういうたとえの仕方があるんだっていうことにびっくりして。
     
   
     
藤本   この前僕らがトミカラーに行ったときにも、いろいろお客さんに分かりやすく伝えるために工夫してる資料を見せてくれたよ。
     
小倉   それは、やっぱり岡田さんはラボのなかで一番写真が好きな人だったからなんですよ。お客さんに混じって祭りを一緒に撮りにいったり、あと僕もよく岡田さんの車に乗せてもらって、みんなで撮影しながら琵琶湖一周したりしましたね。
     
藤本   そうか。岡田さんも小倉君も撮り手のことをよく分かってるっていうところが違うんやね。

お客さんとの関係

藤本   ラボはお客さんである写真屋さんの、そのまたお客さんまで考えてプリントしないといけないって、すごいことやね。
     
小倉   そう、店ごとに好みの色もあって。
     
藤本   岡田さんの話で印象的やったのは、店の好みや、その先のお客さんの好みを聞いたとき「ここまではお客さんの言うことを聞くけどこれ以上聞いてはいけない」っていう自分なりの範囲を持っておく必要があるって。でも、今の小倉君の立場だと、そこはもっと狭くていいのかなって思うんやけど、どう? たとえば、僕らが小倉君にプリント出す時は、小倉カラーに仕上げてくれって思ってお願いするから。
     
小倉   そういう意味では、今は以前と全然違うかもしれない。色のことでいうと、最近全国的に色味や明るさをチョイスできるお店がどんどん増えてますよね。昔はただフィルムを渡して終わりだったのに、そうやって選ぶことができればお客さんも写真の楽しみが増えるから良いことだなと思っています。でも、うちはいつもおまかせにしてもらっているんですよ。写真ってフィルム一本の中にひとつのストーリーがある。僕は、そのお話をフィルムから見つけ出して、プリントとして目に見えるかたちで提案させてもらっています。
     
藤本   お客さんに「もっとこうしてほしいんですけど」って言われたりもする?
     
小倉   ほぼ無いです。ここでは、撮る方と同じくらいプリントでも表現をしようと思って。セッションみたいな感じかな。もしかしてアドリブ効かせて急にこっちが濃くしてもいいのかもしれない。僕も楽しんで、かつお客さんもどんなのが出来上がるんだろうってワクワクしてくれる関係でありたいというか。
     
藤本   それこそ、ワンロールで1曲作るくらいの感じでやってるっていうことやね。ほんとに今って、昔のように大量の同時プリントに対応するためのマニュアルを必要とされる時代じゃないからこそ、小倉君のように「うちはこの色です」って打ち出していけばいい。いろんな店があったらいい。
     
小倉   今ってプロデューサー的なお店が増えてますよね。「こういうお店にしよう」っていう概念を実現させたお店というか。これって今までにない新しい写真屋さんのあり方ですよね。こうしたお店の登場が写真屋さんのお客さんの裾野を広げてくれたんだと思います。写真屋さん離れをしていた人達も再び足を運んでくれるようになった。でも、僕自身については、ジャイアント馬場さんの名言「みんなが格闘技に走るので、私、プロレスを独占させていただきます」をお借りするならば、技術を最重要視するお店を独占させていただきます(笑)。昔と違って機械が賢くなり、誰でも触れるようになった今だからこそ、ラボマンとしての腕の見せ所だと思っています。
     
藤本   そう! 今回僕がこの特集をしようと思ったときに、ぼやっとイメージしていた「フォトシエ」を、今すごい代弁してくれた感じがする。ほんとにそう。「フォトシエ」って、プロデューサーじゃなくて技術の人なんやわ。以前、札幌にあるマッキナフォトの橋口さんに会った時も「みんな結局好みの色味をはっきりとは決められないから、僕が焼きたい写真を焼くんです」って言われて。それを聞いて、まず、みんなが案外決められないってことを知ったのと、それに対して「自分の色で焼くから」って言い切って、かつ慕って任せてくれるお客さんがいる橋口さんってすごいなと思った。それって理想的やなって。で、聞くと橋口さんも結構色のことを勉強してきてはる人で。そこに大きな差があるんかなって。
     
小倉   僕も橋口さんと同じスタンスかもしれませんね。
     
藤本   それが、やっぱり写真屋さんの本分じゃないかな。プロデューサー店はプロデューサー店でちゃんと素敵。でも、今変わろうとする写真屋さんが、雑貨を置いて、内装をおしゃれにして、一律プロデューサー店を真似ようとする現状を見てて、違うなと思う。映画で言うと、今はシネコンばっかりだけど、昔はたくさん小さい映画館があって「あそこに行ったらこんな映画がやってる」っていうのが良かったよね。それが写真屋も一緒で、その人、オーナーの個性がちゃんと見える写真屋が増えて欲しい。小倉君の店には明確な個性が見えるもんね。
     
小倉   ただ、みんなが「僕が正しい」ってなるのも違っていて。
     
藤本   そう、みんなが自分の考えなしに同じ方向に行くのは、よろしくない。
     
   

写真屋さんの未来

藤本   市井の人々ってみんな実は一生懸命社会で生きてて、実際、岡田さんってすごいやん。まっとうに写真焼いて頑張ろうとしてる人にも光が当たらなくてはいけない。そう考えたときに、表に出ていて、かつほんとに写真屋の本分を果たせてる人って、小倉君しかいないと思う。それが僕にとっては希望。小倉君が注目されるっていうことは、すなわち岡田さんが注目されるっていうことやから。それで、将来フォトシエになりたいって思う人が増えてくれることが、写真屋さんの未来に繋がるからね。
     
小倉   ラボマンは、自分の想像力がめちゃくちゃ必要なんです。昔は、岡田さんも僕も原板のネガやポジを見て、まずこうしようっていうイメージを先に作り、それに基づいてCMY(※C=シアン、M=マゼンダ、Y=イエロー。写真の色を決める構成要素となる)の調整数値を全部手書きしてプリント担当の人に渡してました。
     
藤本   完成形が想像できているってことやね。では、最後に質問。そもそも、今みんなフィルムで撮らなくなってるけど、デジタルのお客さんもいるの?
     
小倉   もちろん。別にうちはフィルムだけにこだわってるわけではなく、デジタルでも綺麗に出したいと思っているから。デジタルも、フィルム同様一コマづつやってます。だってどちらも大切な写真には変わりないので。
藤本   みんな、デジタルには目をつむりがちなんだよね。でも、デジタルの話もしないと未来はない。
     
小倉   ラボで岡田さん達と一緒に働いて学んだ技術、受け継いだ意志を、自分の方法でさらに進化させるのが僕の仕事だから。
     
藤本   これから考えてることってあるの?
     
小倉   それは常にあるけど……内緒です(笑)。でも、いい意味で変わらず頑固にやっていきたいかな。
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